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マカロニほうれん荘 41〜60話

■041話 惑星のメルヘン!! 78/02/27(10号)

本編123話中の41話目、ちょうど前半3分の1が終わる時、マカロニほうれん荘の物語に最大の転換点が訪れる。全編読んだ後の感覚としてはこの回が真ん中辺りに感じるが、実際はまだ3分の1なのだ。

扉絵:古いヨーロッパの町並みが美しい。きんどーさんは怪傑ゾロか? まり子さんの登場する唯一の扉でもある。

4巻89ページ6コマ目:明治時代は1912年7月30日まで。明治生まれの人は膝方さんくらいの息子がいるには少し年配過ぎるようで、膝方さんのお父さんという意味ではないみたいだ。

4巻93ページ10コマ目〜94ページ5コマ目:かおりが七味とうがらしのファンであるという設定が為されている。後からこの設定を使って何らかの話を展開しようとしていたことは確実だ。おそらくは、七味とうがらしが膝方であることがバレる/バレないで一悶着あることが読者には予想できる。
またこの設定は、膝方とかおりが心の深いところで結びついていることも示しているのではないか。この辺からこの二人の恋愛線が本腰入れて模索され始めたようにも思える。
七味とうがらしは童話作家という設定であるが、「イチゴ大統領のニンジン畑」にしても他の作品にしても内容まではわからない。ただ「ステキなメルヘン」で「感動する」という説明だけ。ほんの一部分が79話の1コマ目に出てくる。
「イチゴ大統領のニンジン畑」というタイトルは、ビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」を連想させる。

マカロニほうれん荘には所々にお伽噺やそれに類する昔話が織り込まれている。白雪姫、シンデレラ、竹取物語、アリとキリギリス、浦島太郎、笠地蔵など。またそれ以上に作品中要所要所でメルヘン的なオリジナルアイデアが示され、作者がお伽噺・メルヘンに興味があったのは確実と言える。七味はそういったメルヘンを紡ぐクリエイターであり、作者もまたマカロニほうれん荘というメルヘンをここまで紡いできた。つまり、この回で作者は、改めて自らを膝方に投影し直そうとしているように思える。
ここまでは、作者と読者の視点は基本的には(あくまで基本的には、だが)そうじにあった。作者=読者=そうじであり、そうじの視点から物語が綴られていた。ここからはそうじのいない場面も増え、より群像劇的になり、三人称的な視点の物語になってゆく。その中で作者は折につけ膝方の背後に身を潜めるようになってきているのではないか。作者の内面のことなのではっきりとはわからないが。
またそうなった理由もよくわからないのだ。そうじの常識人っぽさ、ニュートラルさに飽き足らなくなったのか?

4巻95ページ4〜8コマ目:マカロニほうれん荘で地の文による説明がなされるのは珍しい。この設定がそれまでの話と整合しづらい突拍子もないものであったことの現れではないか。

4巻96ページ1コマ目〜97ページ2コマ目:七味の口調は膝方と比べどことなく物静かだ。が、96ページ5コマ目のようにセンスの似ている部分もある。
風貌では、目がサングラスや髪で隠れていて見えない点が両者の共通点。思うに、漫画家は目(瞳)を描かないキャラクターに感情移入しやすいのではないか? 目の隠れた膝方を描いているうちに作者は膝方に共鳴するようになった可能性もある?

4巻96ページ2コマ目:約一ヵ月前の増刊号に「巨大なる戦場!!」が掲載されたことを踏まえてのセリフか?

4巻97ページ3コマ目〜98ページ9コマ目:ルミ子のこのエピソードが何のために挿入されているのか全く分からず、非常にミステリアスである。先のかおりの設定と同じく、あとから使おうと思ったのかどうなのか。97ページ最後のコマで、アニキが電話の受話器を握っている意味もまったく不明だ。

4巻99ページ5コマ目:膝方が七味とうがらしとして稼いだお金を生活費に入れるというのも、ここまでこのマンガを順に読んできた者には相当ショッキングだ。以前は人の弁当を奪って食べたりしていて、それが魅力だったのに、である。

4巻100ページ:最後はきんどーさんも謎の行動をとる。何といっても彼の表情が謎である。2話あとの43話に結びつけることもできるが、43話でも説明し切れていない。
きんどーと膝方はお互いに謎の部分を隠し持っていることになる。

全体的に新たなフェイズに突入し再設定を試みた回であるが、逆に言えば、作者はそれまでのフォーマットに限界を感じていたのかも知れない。34話で小次郎、40話で馬之助を新たなキャラクターとして登場させたが単発感が拭えず、根底的な改変に踏み込んだということだろうか。

■042話 センチメンタルサーカス!! 78/03/06(11号)

前回の新しい設定がすぐには展開せずいったん間を取るのは、作者の良く使う手である。この回では従来のフォーマットでいつも通りの大騒ぎが繰り広げられる。

扉絵:日本刀と女子高生。マンガ好きには有名な扉絵だと思う。

4巻102ページ2コマ目:テディ・ボーイ・ギャング団の下の名前が明記されるのはここが初めて。アニキが「兄樹」だったとは。31話では工員のようなユニフォームを着ていたが、ここでは建築作業員である。

4巻102ページ3、4コマ目:メタフィクショナルなギャグ。

4巻103ページ3コマ目:テディ・ボーイ・ギャング団はここで、クマ先生が教師であることを初めて知る。

4巻104ページ1コマ目:文子先生が工事の立会いまでやっていて何だか面白い。彼女は62話で防犯を担当してもいる。

4巻114ページ8コマ目:「戦慄の」は、当時ハードロックバンドなどのレコード広告によく使われていた一種の叩き文句。

4巻115ページ1、2コマ目:敦子がクラスのリーダーシップを取っているところ。そうじのことをとても好きな女の子という以外の側面が見られるのは嬉しい。

4巻115ページ3コマ目:そうじの読者への直接的な語りかけ。時々用いられるこの手法で、読者の中にマカロニ世界がジワジワと浸透する。

■043話 伝説のチャンピオン!! 78/03/13(12号)

タイトルはクイーンの「We Are The Champions」の日本語タイトル。3巻表紙の下敷きになった「News Of The World」(さらにその元ネタもあるようだ)に収録されている。今ではこの曲の導入部のような「We Will Rock You」の方が有名かも知れない。

扉絵:右側の女性はボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」に似ていなくもない。119ページ7、8コマ目に出てくるロックバンド、UFOのアルバム「NO HEAVY PETTING」のジャケットからヒントを得た絵のように見える。本来の意味のUFOは本作のテーマでもある。

4巻118ページ3コマ目:「これからがまた大変なんだなぁ」と言いつつ口元は笑っているし、5コマ目では鼻唄を歌い、6コマ目では笑顔で「ただいまー」と言っている。そうじの幸せさに読んでいるこちらの心も温まる。

4巻118ページ4コマ目:石垣と坂道は時々背景に描かれているが、杉並区井草付近にこういう風景はないので、作者の住んだ別の土地(大牟田市?)が反映されているのだと思う。

4巻119ページ8コマ目:「NO HEAVY PETTING」はUFOというハードロックバンドの76年のアルバム名。

4巻123ページ7コマ目:作者の旧作「呪われた夜」での出で立ち。

4巻126ページ3〜8コマ目:「別場面スリップ法」。

4巻128ページ2コマ目:20年前というと1957、8年になる。

4巻128ページ3コマ目:新しい設定がなされる。

4巻128ページ7コマ目:クマ先生夫妻の馴れ初め。実はゆかりさんもきんどーさんと長い付き合いだったわけだ。

4巻129ページ7コマ目:膝方さんがほうれん荘に来た時には、美智子さんはどこにいたのかは分からないが10才だったことになる。

4巻130ページ2コマ目:こういうところにも膝方さんとクマ先生の緊張関係が見て取れる。さらりとこんな的確な反応をさせられるのが作者の凄さ。

美智子さんの神秘性、きんどーさんの人間の大きさが印象深く、非常に心を打つ美しい一編だ。SF的で、学園日常マンガの範疇を越えているが、マカロニほうれん荘全体の中で特に浮いているわけではない。

■044話 麗しのベラドンナ!! 78/03/20(13号)

タイトルは、ビリー・ワイルダー監督の「麗しのサブリナ」(1954年)と虫プロのアニメーション「哀しみのベラドンナ」(1973年)を足して2で割ったものだろうか?
また、前半と後半で話がくっきりと分かれている。39話のようにネタの統一が難しかったのかも。

4巻185ページ1コマ目:一つ前のコマの朝日も小道具だったようだ。

4巻185ページ5コマ目:セリフの元ネタわかりません。きんどーさんの衣装はラナウェイズで、クマ先生も3話で着ていた。

4巻189ページ1コマ目:酒についての作者の実感か。

4巻189ページ5コマ目:ブースカ語?

4巻190ページ3コマ目:アップルハウスの売り上げが悪かったりすると二人に対する怒りが込み上げてくるのではないか。

4巻194ページ5コマ目:米国ウェストヴァージニア州で目撃された体長3mの宇宙人がモデル。

4巻195ページ1、3コマ目:何かの映画が元ネタだと思うのだが、何かは不明。

4巻196ページ2コマ目:「シンバッド七回目の航海」(1958年、米国映画)を参考にしたか。

前回に引き続きSF的な要素を含むが、この回には種明かしがある。現在の仮想現実映画を先取りしたようなテクノロジーが描かれている。

■045話 鏡の国の七味先生!! 78/03/27(14号)

中に3話置き、七味先生二度目の登場。タイトルはもちろんルイス・キャロルのアリス2作目のもじり。

4巻200ページ1コマ目:テディ・ボーイ・ギャング団がすっかり「いい人」「仲間」になってしまい、悪役のチンピラを別に用意しなければならなくなった。

4巻210ページ3コマ目:背景のパネルに毎週沢山のファンレターが届いていることが記されている。

4巻210ページ5コマ目:バレては困ると膝方は考えている。その理由はこの時点ではわからないが、彼がそう思っているというのは重要な設定だ。

4巻212ページ6、7コマ目:ト書きの言い回しはつげ義春の短編「李さん一家」のパロディーになっている。6コマ目はつげ風のタッチ。4コマ目のほうれん荘は李さん一家の住んでいたアパートみたいだ。

■046話 天使の反逆!! 78/04/03(15号)

単行本第5巻収録だが、編集に難あり。この回は第4巻冒頭の2話より絶対に先に配置されていなければならない。
半年を経て益田弘美ちゃん再登場。

5巻8ページ3コマ目:壁村耐三は少年チャンピオンの当時の編集長。

5巻14ページ1コマ目〜15ページ6コマ目:ギャグマンガ・マカロニほうれん荘にこういう恋愛場面が存在することは、世間一般に知られているのだろうか? 知られていない気がする。
そうじ・弘美にとってもイレギュラーな趣きの場面であり、普段とは違う切迫した二人の言動を見ることができる。そうじが弘美を引きとめる15ページ1コマ目がいい。

5巻14ページ6コマ目:金井克子「他人の関係」のステージアクションか。

テディ・ボーイ・ギャング団や敦子の振る舞いがやや類型的な気もするし「むず痒くなってくる」という批判も多分あるだろうが、作者はストレートに描き切っている。さすがプロの漫画家だ。

■047話 分身No.5のオーロラ!! 78/04/10(16号)

何故かページ数が少なく12ページしかない。おおむね15ページであることが多いのだが。
眠りながら足だけ自動で動かしている→タイマーを変なふうにセットされ踊り続ける→車に撥ねられロボットのようにバラバラになる→小さな体7体に分身する→そのうちの1体が行方不明になる……という突拍子もない展開はマカロニほうれん荘ならではで、感嘆する他ない。そして、どことなくメルヘン的である。

扉絵:フランス映画のポスターのよう。下敷きにした何かがあるのかないのかわかりません。

5巻22ページ:当時の杉並区井草の風景は多分こんな感じだったろう。

5巻25ページ1、2コマ目:学園日常ギャグマンガの中でこういう出来事を自然に起こせるというのがとにかく凄い。

5巻30ページ2コマ目:コニー・フランシスの「プリティ・リトル・ベイビー」(1961年)。

5巻30ページ3コマ目:女子大生トリオが住んでいるマンション。小綺麗な感じがし、こういう点も作品全体に「おしゃれ」というイメージを付与している。友人とルームシェアしている学生は当時は少数派だったと思う。

■番外編03 雄々しき翼!! 78/04/15(増刊号)

スターシステム型スピンオフ作品第3弾。日中戦争が舞台。
「雄々しき翼」はエリック・カルメンの1978年の曲「Boats Against The Current」の日本語タイトル。この回のラストシーンで流れると合っているかも。
ほうれん荘トリオとテディ・ボーイ・ギャング団がチームを組んでいるが、そうじがリーダー役のため、アニキのセリフはほとんど無い。

5巻38ページ9コマ目、42ページ2コマ目:「ダメかね!?」というセリフ、大変面白いのにこの回以外にほぼ出てこないのが残念だ。

5巻44ページ3コマ目:2巻115ページ3コマ目と同様のギャグ。

5巻45ページ5コマ目:珍しくクマ先生が悪役である。

5巻47ページ5コマ目:美智子さんまで登場する。33年前に戦争が終わったということは、48ページは1978年の世界ということ。

5巻48ページ7コマ目:痛烈な皮肉。作者が戦争の怖さをよく知っており、平和主義者であることがわかる。

■048話 必殺の春!! 78/04/17(17号)

同室の三人と大家のかおりさん、同じ屋根の下に住む家族のような4人が仲良くハイキング……というところまではよいが、いくつか問題点のある回。

5巻51ページ4コマ目:「小さなバイキング ビッケ」はスウェーデンの児童文学で、アニメにもなっている。

5巻51ページ7コマ目:膝方さんも盛大にズッコケている。

5巻51ページ6コマ目:「FORCE IT」はハードロックバンド、UFOの1975年のアルバム。

5巻60ページ1コマ目:図星すぎて不自然。そう気づかれるような行動も表情もここまでの小次郎にはない。

5巻61ページ3コマ目:前回の戦いもこの後展開する戦いも「決闘ごっこ」であり、リアルな肉体の激突ではない。それを34話で周囲の人も目にしている。と同時にここでのセリフはリアルな激突であることを示してもいる。文庫版解説で菊地秀行氏の言う如くどっちなんだということになるのだが……この程度の矛盾は易々と呑み込んでいるのがマカロニなのだ……。

5巻64ページ3コマ目:膝方がかおりを好きだという前提がないので「恋に敗れた」という言い方はおかしい。また1コマ目の描写にしても、かおりに敗者の安否を心配している以外の意味は見出しにくい。ここで恋を持ち出すきんどーさんのまとめ方は的確でない。

5巻64ページ6コマ目:駄洒落オチも感心しない。

強引にでもかおりと小次郎を接近させたかったのか。しかしそれ以前に膝方とかおりの恋愛さえここまで殆ど描かれていないのだが。
なんとかして局面の打開を図ろうと作者が苦心し、焦って上滑りしているように見える。それほどまでに作者の中でマカロニほうれん荘の物語は行き詰まっていたのだろうか?

■049話 逆襲のドラムソロ!! 78/04/24(18号)

4巻6ページ7コマ目:ブライアン・フェリーはバンド、ロキシー・ミュージックのリーダー、ヴォーカリストで、現在はソロ・アーティスト。作者が膝方のモデルだと言っている。

4巻8ページ6コマ目:35話でも描写があるように、クマ先生は屋台の飲み屋で一人飲むのが好きなようだ。

4巻11ページ4コマ目:マカロニほうれん荘はそれぞれのキャラクターがいつも口にするフレーズだけで、ある程度はコマを運べてしまいそうなマンガだ。

4巻13ページ2コマ目:左の二人は女子バレーボール部員。

4巻13ページ5、6コマ目:そうじは不良を恐がっているが、それがまた魅力的だ。一方不良の方もそうじのきんどー・膝方への影響力を恐れている。

4巻19ページ5コマ目:今回のラストでは弘美が読者に語りかける。

■050話 ラブ・トゥ・ラブ 78/05/01(19号)

「Love To Love」はバンド、UFOの1977年の曲。
27ページ以降、本筋とずれたところで大騒ぎする二人のギャグは、何となく「ピンクパンサー」のクルーゾー警部を連想させる。

扉絵:この絵もまたスピンオフ的である。本編とは別の世界でキャラクター(俳優)達が顔を揃えている。その世界の時代も場所もここでは判然としない。

4巻22ページ9コマ目:こんなギャグにもちゃんと気づけるそうじ。

4巻23ページ5コマ目:家と学校で四六時中一緒にいるきんどーには、そうじのダメな部分もよくわかっていて不思議ではない。

4巻32ページ5コマ目〜33ページ5コマ目:ストーカー行為なのだがかなり切なくもある。そうじが縛られているためややSM的な雰囲気。

4巻35ページ8、9コマ目:65話に出てくる佳世子さんとは別のお手伝いさん。

4巻36ページ7コマ目:最後は中嶋麻美ちゃんが本格的に登場する。先ほどの姉以上にSM的な雰囲気のコマで、マゾヒズム傾向の男性読者にはズキンとくる絵かも。

■051話 美しき春の夜!! 78/05/08(20号)

こうして順番に読んでいくと、ラブストーリー色の強い回とギャグ色の強い回が入れ替わりで出てくるのがマカロニほうれん荘の手法であることに気づく。ロックなどのアルバムに、バラードとアップテンポのナンバーが交互に入っているようなものだろうか。
今回は完全にほうれん荘トリオしか出演しない。春の一夜の日常的な下宿生活が描かれ、何とも言えず楽しい。

4巻41ページ4コマ目:バビロニアは紀元前メソポタミアにあった王国。

4巻41ページ5コマ目:マダガスカルはインド洋に現在ある島国。前項ともども何故こういう国名が出てくるのか謎。

4巻42ページ7コマ目:「アカシアの雨がやむとき」(1960年 西田佐知子)の歌い出し。

4巻43ページ1コマ目:膝方の素のヘアスタイルが変わる。連載開始以来初。
それにしてもこの辺りから膝方があまりにも格好良くなってきて、菱形の口は封印してほしいと思うほどだ。おバカなことをやるのも素の顔、素の体型でやってほしい。

4巻43ページ8コマ目:実に洒落た手法。

4巻49ページ7、8コマ目:他の回にも描写があるが、普段そうじと膝方は同じ布団で寝ているようだ。こういう夢物語の中ではこれもまた楽しい。

4巻52ページ7コマ目:そうじから読者への直接の語りかけ。実在感を高める手法であると同時に、主人公がそうじであり、彼の視点からの物語であることを示してもいる。だが、そうじによるこの手法も今回あたりでそろそろ最後であり、以降そうじは物語の中心から少しずつ離れてゆく。それがまた計ったように丸1年目なのは不思議だ。

■052話 約束の地!! 78/05/15(21号)

「約束の地」は旧約聖書の言葉だが、作者はチャック・ベリーの「Promised Land」(エルヴィス・プレスリーのカヴァーもある)から採ったのだろうか。ブルース・スプリングスティーンの「The Promised Land」はこの回よりあとの発表だと思う。 
膝方さんの存在の、ひいては日々ほうれん荘や学校で展開されている出来事の意味を問うかのような重要回である。

扉絵:膝方さんのハッピに「マカロニほうれん荘一周年」の文字があり、それを記念してキャラクター達が集結している。まさに青春まっただ中、輝く太陽のような目映いばかりのイラストだ。ルミちゃんの満面の笑顔、弾けるそうじくん。
それにしてもここまでのストーリーを一年で描いたとは密度が高い。

4巻56ページ6コマ目:話は、結婚・地位・金と、膝方が今までやってきた遊びだらけの自由な生活と、どちらを選ぶのかという単純な構図になっている。

4巻58ページ1コマ目:そうじも乗り気ではない。周囲の反応がきんどーの時(23話)とかなり違う。

4巻58ページ5コマ目:膝方の言葉に嘘は感じないが、ただ一方読者にはこの時点で、彼が七味とうがらしであり作家として結構売れていることもわかっている。

4巻59ページ3コマ目:想像の中でそうじが何故かボーイになっていて可笑しい。

4巻60ページ4コマ目:膝方・かおりの恋愛ラインで14話と118話をつなぐ唯一のコマ。ダブルミーニングと受け取れる。一つの意味は愛する男が結婚するかも知れない不安。もう一つの意味は遊びに満ちた日常が失われる不安。その二つがかおりの表情に重ねられている。この回のラストでは特に後者の不安が解消する印象を残して収束する。

だがそもそも、膝方・かおり恋愛ラインはここまでで14話にしか現れておらず、14話にしても受け取り方次第みたいなところがある。28話、30話などはかおりとそうじのラインが描かれていた。だからこのコマでの表情はかなり唐突で、「え? かおりさんって膝方さんが好きだったの?」と意外に思ってしまう。このあとは一気に118話まで跳んでしまい、膝方・かおりラインは相当目立たない描き方がされている。するどい読者なら5話あたりでピンとくるのかも知れないけれども。
28話や30話で描かれたかおりとそうじの関係は、そうじが弘美とよりを戻したため消滅したと読者に想像するように仕向けられているようだ。やはり始めからさほど進めるつもりはなかったと思える。

4巻61ページ8コマ目:左側は全員喪服? かおりと女子大生トリオは男装か? クマ先生、文子先生の顔も。教師二人が加わっていることの意味は非常に大きい。

4巻66ページ9コマ目:全員でお見合いをぶち壊す。みんな膝方に結婚してほしくなかったのである。膝方を通して皆で育んでいた混沌とした遊戯の世界を、彼ら・彼女らは──常識人で膝方を叱ったり彼から迷惑を被る側にいたかおりやクマ、文子でさえ──手放したくなかったのだ。今しばらく彼と一緒に遊んでいたかったのだ。その証拠としてのある表現に多くの読者が無意識のうちにでも気づいている筈だが、はっきり指摘している人がいたので一節引用する。

「そうじくんにいたっては(中略)『いいかげんにしてください!』を絶叫するときでさえ、眼は笑っているのである。」
────斎藤次郎「子ども漫画の世界」(現代書館)

結婚したら遊びの世界から離れなければならないのかというと必ずしもそうではないだろうけれど、作者は結婚にそんな(ちょっと男の子っぽい)イメージを抱いていたのかも知れない。

4巻67ページ6コマ目:金や地位は得られなかったが自由は守ることができた三人。普段のほうれん荘の部屋や庭ではないどこかの空地に座っている珍しいカットだ。このカットも含めて、全体に非常にメルヘン的な雰囲気の話になっている。ロック的価値観が現れているようでもある。

さらに、この回は一周年記念ということもあってか特殊な位置付けだとも言えなくもない。次回53話にかおりのこんなセリフがある。
「あんたたちが悪いのよっ!」(4巻155ページ10コマ目)
これは奇妙だ。お見合いぶち壊しにはかおり、クマ、文子らも加担していたのだから、二人だけに責任は負わせられない筈である。
思うに、52話は普段の回より一段深い層に属する話でこのマンガ全体の本質をわざわざ浮き彫りにして描いた回なのではないか。普段の層で実際に起きたのはきんどー・膝方が“二人で”お見合いをぶち壊したことだった。よって通常モードに戻った53話では52話の“皆で”ぶち壊したという「深層的な気持ちの部分」はすっ飛ばされた──。
全体的にメルヘンぽいのはそういう特殊性のためだという気もする。

■053話 友よさらば!! 78/05/22(22号)

前回を受けての展開。関連のある話が連続するのは珍しい。

4巻155ページ5コマ目:ペイジ&プラント。

4巻155ページ10コマ目:前回の項を参照してください。

4巻156ページ2コマ目:7話に同じギャグがある。

4巻156ページ6コマ目:リトル・リチャードか?

4巻157ページ3〜8コマ目:泉鏡花「婦系図」の新派劇などで使われたセリフ。「今の私には」の次は「いっそ死ねと言って下さい」。ただ、人物はお蔦と早瀬主税である。お宮と貫一は尾崎紅葉「金色夜叉」の登場人物で、多分作者の勘違いだろう。貫一はお宮が金に目がくらんで自分を捨てたのではないかと思ってお宮を恨んでおり、どことなく52話ともテーマの通ずる話だ。

4巻158ページ1コマ目〜:ここから終盤までの激しい動きの連続はまさに作者の独擅場。作品を直接読んで楽しんでいただきたい。

4巻161ページ1コマ目〜162ページ3コマ目:「別場面スリップ法」。

■054話 鉄のハート!! 78/05/29(23号)

前半と後半ではっきり話の分かれている回。後半はそうじの視点は全く無い。

4巻167ページ:このページはちょっと意味がわからない。

4巻168ページ3コマ目:何故将棋を打っているのかわからない。

4巻170ページ8コマ目〜171ページ6コマ目:画面の奥行きを使った激しい動きと突然の静止。

4巻172ページ4〜7コマ目:アニキが時々やるメタフィクショナルなギャグ。

4巻175ページ4コマ目:森田くん、沢松くんは何故遠慮しているのだろうか?

きんどー・膝方の強烈な奇行がいくつかあるが、ベースになっているのは何ということもない日常の生活である。私は全く読んでいないので完全に当て推量だが、マカロニほうれん荘には2000年以降のラノベ等で「日常系」「空気系」などと呼ばれるもののルーツ的側面もあるのではないか。

■055話 裏切りの街角 78/06/05(24号)

タイトルは甲斐バンドの曲名から。中嶋敦子ちゃんのお父さん、その部下・安田さん、お手伝いの佳世子さんが登場。
前回に続きそうじの視点はほぼ無い。そうじが中心から外れ始め、そうじの目から世界を見ていた初期から三人称的な物語に変化してきている。

扉絵:中央部4人のバンドはストラングラーズがモデルと思しい。かわいい豚はもちろんピンク・フロイドのアルバム「アニマルズ」が元ネタ。

5巻71ページ8コマ目:娘をふった男の子がこの二人と同居していることは知っているのかいないのか。

5巻76ページ1〜5コマ目:敦子もちゃんとノってくれている。

5巻79ページ1〜3コマ目:膝方さんは自分がカッコいいという事実が恥ずかしくて仕方ないのだろう。だからわざわざコスプレして、わけわからないポーズをとって、わけわからないワザを使うのだ。

5巻80ページ5コマ目:既に65話の構想があったのかも知れない。

■056話 未知との行き違い!! 78/06/12(25号)

原点に回帰したような授業妨害もの。マカロニほうれん荘の底流となっている、言わばいつものパターンである。
タイトルはスピルバーグの映画「未知との遭遇」(1977年)のもじり。円盤から宇宙人が降りてくる映画だった。

5巻89ページ:藤島桓夫の「月の法善寺横町」か? 私の知識不足のためこのページはよくわかりません。

5巻90ページ7コマ目〜71ページ3コマ目:つげ義春「ねじ式」のパロディ。

5巻95ページ6コマ目:「ちょめ」は「ドラネコロック」めぐみちゃんの定番フレーズ&ポーズ。

■057話 聖なるメッセージ!! 78/06/19(26号)

5巻98、99ページ:冒頭2ページで展開するルミちゃん作のメルヘン。楽しい。

5巻98ページ5コマ目:「この種の〜は……」この文体、どこかで見たような気がするが思い出せない。つげ義春かなあ?

5巻100ページ6コマ目、103ページ8コマ目:やはり膝方は七味であることを知られたくないのだ。

5巻102ページ1コマ目:七味の担当編集者・夢野さんが初の顔見せ。声だけは41話で出てきている。

5巻103ページ9コマ目、105ページ1コマ目:ギャグではないストレートな心の内で、一般の人と変わらない。「非一般人」である膝方の場合こういうセリフは出てこない。

5巻111ページ2〜4コマ目:ルミ子が疑問を抱き始める。彼女は自分が道で遭遇した人物が童話作家の七味とうがらしとは認識していないようだ。だが徐々に正体がバレる方向に進んでいっている。

5巻112ページ6コマ目:55話に出てくるフレーズと同じ。

取っ散らかった印象もある回だが、七味とうがらしを巡る物語が少し前進する。七味は膝方流のおふざけを継承しながらも、より理知的な雰囲気を漂わせ、世間一般の常識を理解しているようである。

■058話 静かなる暴動 78/06/26(27号)

タイトルは多分バンド、Quiet Riotからとったのだと思う。

5巻118ページ:このページは左ページだった。この回は以降ずれている。

5巻118ページ5コマ目:膝方のセリフは雑誌掲載時には「まるで三百六十五歩のマーチですね」だった。

5巻123ページ4コマ目:編集の問題だが、「そー子」という表記は崩し過ぎではないか。固有名詞なのだから普通に「そう子」とすべきだろう。

5巻123ページ8コマ目:wikipediaで調べたところ、酔八仙拳は本当にある中国武術だった。

5巻126ページ2コマ目:膝方が女性に対し逃げ腰である。今後この種のコマは何度か描かれることになる。そうじが敦子から逃げるのは弘美がいるからだが、膝方は別の理由で全ての女性から逃げている。52話での苦い経験からそういう態度になったとも推測できるが、ならばどこかにそれを示すセリフなり何なりがあってもよさそうだ。

5巻126ページ8コマ目:何の前触れもなくマンモス稲子ちゃん初登場。ここでは名前もまだ記されていない。なんとなく性自認が女性である男性に見えるが、情報がなく詳細は不明だ。

■059話 反撃のバラード!! 78/07/03(28号)

きんどーさん対それ以外の人という対決図式で、膝方さんもきんどーさんを捕まえる側にいる。七味への変身を重ねて、ポジションが常識者側に少し移ってきたのか。

5巻139ページ3コマ目:霧の遁兵衛は隠密剣士の登場人物。演じた俳優は牧冬吉で白影と同じ。

■060話 バミューダ・トライアングル!! 78/07/10(29号)

バミューダ・トライアングルは5話や44話にも言及あり。作者はけっこう気に入っているようだ。この回では三角関係を意味しているのか。
短めの回で12ページしかない。

扉絵:本編以上に力が入っているのではないか。左の膝方から右のそうじまで天地の中央付近に顔のある人物はボッティチェリの「プリマヴェーラ」が下敷きになっている。あとは見覚えがあるような気もするがオリジナルかも。膝方の右腕に巻かれた布(紙?)にはFrank Zappaの文字が見える。

麻美ちゃんの年齢は明記されていないが小学校高学年、10〜12才といったところか。マカロニは日本でオタクとかロリコンとかいう言葉が一般化する以前のマンガであり(ロリータコンプレックスという言葉は勿論あった)、したがってと言うべきか、ロリータ好きの漫画家が描いた作品で登場女性全てがロリータになっているようなケースと違い、麻美ちゃんははっきり意図的にロリータとして造形されている。

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